リスキリングとは、新しい職務や事業に必要なスキルを学び直すことです。社内で進める際は、事業の変化と社員が担う仕事を先に整理し、その仕事に必要な学びを選びます。研修の受講後に、学んだ内容を使う業務と評価方法まで考えることが出発点です。
リスキリングとは、新しい仕事に必要な技能を学び直すこと
リスキリングを検討するときは、研修の名称よりも、学ぶ理由を明らかにします。新しい事業で何を担当するのか、現在の業務をどう変えるのかを言葉にします。その変化に必要な知識や技能を学ぶ、という関係で整理すると対象者を選びやすくなります。
厚生労働省の事業展開等リスキリング支援コースも、事業展開などに伴う学習を支援する仕組みです。新たな分野に必要な専門知識や技能の習得を対象に挙げています。研修名にリスキリングと書いてあるだけで、助成対象になる仕組みではありません。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ここではデジタル技術を用いて業務や事業を変える取り組みとして捉えます。グリーン・カーボンニュートラル化(GX)は、脱炭素などに向けた取り組みです。こうした名称だけで内容を決めず、自社で担当する具体的な作業まで確認します。
この記事の進め方や評価の例は、社内で検討するための整理です。すべてが助成金の法定要件という意味ではありません。制度上の条件は、後半で説明するコースの要件と区別して確認します。
社内のリスキリングは事業計画から必要な職務を洗い出す
最初の作業は、事業計画を社員の仕事に置き換えることです。たとえば、資料にあるドローン測量の例では、人手中心の測量から手法を変える計画があります。その計画に沿って、測量に必要な知識と飛行の演習を訓練内容にしています。
- 事業計画から必要な職務を洗い出し、担当する業務を具体化します。
- 担当者の現状と、新しい仕事に必要な技能との差を確認します。
- 差を埋めるために学ぶ内容を決め、カリキュラムと対応させます。
- 学習後の評価方法と、学んだ内容を使う配置・担当業務を設計します。
事業計画が広い表現のままでは、研修内容との対応も曖昧になります。「デジタル化を進める」という方針なら、どの工程で何を変えるかを追って確認します。営業資料の作成なのか、測量手法の変更なのかで、必要な訓練は変わります。
この整理は、研修会社に相談する際の説明材料にもなります。希望する講座名だけを伝えるより、対象者の担当業務と到達したい状態を伝える方が内容を検討しやすくなります。事業主側が説明する事業計画と、研修会社が提供するカリキュラムを対応させます。
現状とのずれを確認してリスキリングの研修内容を決める
現状の確認では、本人の職種名だけで判断しない扱いが必要です。同じ部署でも、実際に担当する作業や、これから任せる仕事は異なります。資料の改正例でも、訓練内容に沿った対象労働者の選定が確認点に挙げられています。
- 今の担当業務について、独力でできる作業と支援が必要な作業を整理します。
- 予定する仕事で必要な作業を並べ、学習が必要な部分を切り出します。
- 知識の説明を聞くだけで足りるのか、操作や修正まで学ぶ必要があるのかを考えます。
- カリキュラムの各項目が、どの業務に対応するかを確認します。
たとえば営業向けの生成AI研修なら、文章生成という項目だけでは仕事との関係が読み取れません。商品提案書の構成案作成や修正方法まで示すと、何に使う技能かが明確になります。厚生労働省の改正資料も、この具体的な業務とのつながりを例示しています。
一方、広い概念を学ぶことと、特定の業務に使う技能を学ぶことは分けて考えます。概念を学ぶ研修の必要性と、特定コースで助成対象になるかは別の判断です。社内で必要な学びを決めた後に、制度との対応を確かめる順序が適しています。
職務別に学ぶ内容の例:営業・測量・排出量算定
次の例は、厚生労働省の資料にある訓練内容を職務別に整理したものです。商品や技術の名称だけで選ぶのではなく、その仕事で行う作業に注目します。表中の例に似ているだけで、自社の訓練の支給が確定するわけではありません。
| 職務・担当 | 学ぶ内容 | 仕事とのつながり |
|---|---|---|
| 営業担当者 | 生成AIによる商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法 | 営業の具体的な業務に直接使う内容 |
| ドローンを活用した測量の担当者 | ドローン測量に必要な知識、測量飛行の演習 | 人手中心の測量から新たな手法へ移るための技能 |
| CO₂排出量算定の担当者 | エネルギー使用量データの収集、算定ルールに基づく計算手順 | 担当する算定業務に直接組み込む実務能力 |
CO₂排出量算定の研修は、同じ内容でも人事や営業の担当者を対象とする場合、改正資料では助成対象外です。訓練のテーマだけでは判断できず、受講者の仕事との対応が必要です。これは事業展開等リスキリング支援コースのDX化・GX化に関する例です。
生成AIの例でも、汎用的なプロンプトの作り方にとどまる内容は対象外とされています。プロンプトとは、生成AIへの指示文です。特定業務への具体的な適用を伴うかを確認するため、演習の題材や作業内容まで見る必要があります。
ilandoでは、担当職務ごとに講座を分けています。営業担当者向けは営業担当者のための生成AI活用講座、情報システム担当者向けは情報システム担当者のためのセキュリティ運用講座、データ分析の担当者向けはPythonによるデータ分析入門講座です。
リスキリングの評価と配置は、受講前に設計する
研修後の評価は、受講したという事実と、仕事に使える状態を分けて考えると整理できます。出席や修了の確認は学習の実施を示すものです。社内の育成では、それに加えて任せる業務を具体化することが検討事項になります。
営業の例なら、提案書の構成案を作り、目的に沿って修正できるかを確認する案が考えられます。排出量算定の担当者なら、データの収集と計算手順を説明できるかが確認の題材になります。これらは社内評価の設計例であり、資料にない審査基準を追加するものではありません。
配置まで設計するとは、学んだ人がどの仕事を受け持つかを決めることです。研修終了後に使い道を探す形では、事業計画と学習内容の対応が弱くなります。現場の責任者と人事担当者が、受講後の担当業務を同じ言葉で説明できる状態を目指します。
評価を考える段階で、研修内容の不足が見える場合もあります。講義項目にある知識だけで予定の作業ができるかを確認します。追加の学習が必要なら、業務上の必要性を整理してから計画を見直す扱いです。
リスキリングと人材開発支援助成金の関係
人材開発支援助成金には、目的や方法に応じたコースがあります。事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業などに伴う専門知識や技能の習得を支援します。DX化・GX化に関する訓練や、計画に基づき今後従事する職務の訓練も資料に示されています。
| 確認する項目 | 資料に示された条件 |
|---|---|
| 訓練時間数 | 10時間以上 |
| 訓練方法 | OFF-JT。企業の事業活動と区別して行う訓練 |
| 対象事業主・労働者 | 雇用保険適用事業所の事業主と、雇用保険被保険者 |
| 事業展開と職務の関係 | 事業展開等実施計画に取り組み内容を記載し、計画届と併せて提出 |
今後従事する職務に向けた訓練の類型では、人事・人材育成の計画に事前確認が必要です。資料では、認定経営革新等支援機関による確認が示されています。すべての訓練類型に同じ条件があると捉えず、該当する類型を確認します。
人材育成支援コースは職務に関連する知識・技能の訓練などを対象にしています。人への投資促進コースには、デジタル人材の育成や定額制訓練などがあります。あるコースの対象外だから別コースなら受給できる、とは断定できません。
リスキリングで失敗しやすい点と、助成金の相談先
- 流行している技術名から講座を選び、担当業務との対応を確認していない。
- 全員に同じ内容を受けさせ、職務ごとに必要な技能の違いを見ていない。
- 研修の修了だけを目標にして、学んだ内容を使う仕事を決めていない。
- 助成金の見込みを優先し、自社が負担する訓練経費の支払いを検討していない。
厚生労働省は、訓練経費は無料にならないと案内しています。研修の内容と費用を確認し、助成の可否を前提にせずに支払計画を考えます。助成の可否を判断するのは、管轄の都道府県労働局です。
助成金の申請書類の作成・提出の代行は社会保険労務士の業務で、ilandoでは行いません。申請は事業主が行うか、社会保険労務士に依頼します。最新の内容は厚生労働省の公式ページと管轄の労働局で確認してください。
よくある質問
リスキリングは生成AIの研修だけを指しますか。
生成AIに限りません。資料には、ドローン測量に必要な技能や、CO₂排出量算定の実務能力を学ぶ例もあります。新しい職務や事業で何を担うかから考えます。
社員全員に同じ研修を受けさせればよいですか。
担当する業務と必要な技能を確認して対象者を選びます。事業展開等リスキリング支援コースの改正資料でも、訓練内容に沿った対象労働者の選定が確認点です。
DXの概念を学ぶ研修は助成対象ですか。
事業展開等リスキリング支援コースのDX化・GX化に関する訓練では、概念や共通知識の習得にとどまる内容は対象外とされています。社内での学習の必要性とは分けて判断します。
研修を終えた後の評価は何を見ますか。
社内評価の設計例として、予定した仕事に必要な作業を行えるかを確認します。営業なら提案書の構成案作成や修正など、受講前に決めた担当業務と対応させます。
リスキリングという名称なら助成金を受けられますか。
名称だけでは決まりません。対象者、職務との関連、訓練方法、各コースの要件を確認します。最終的な助成の可否は管轄の都道府県労働局が判断します。
出典
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
- 厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年4月8日版)」
- 厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)改正:令和8年8月3日からの変更点について」
- 社会保険労務士法(e-Gov法令検索。第2条・第27条)